『クジラの彼』

2008年10月5日 読書
クジラの彼
有川浩 角川書店 単行本

私もこれを読みました。表紙イラストがきれいだったのと、あらすじが面白そうだと思ったので。そして少し思い出すこともあって。

一般女子が合コンで知り合って付き合うことになった彼氏が海上自衛隊の潜水艦乗り。艦がドック入りしていた付き合い始めの頃は頻繁に会えたけど、やがて本格的な航海に出始めると1ヶ月や2ヶ月の音信不通はザラ、どこまで行っているのか、いつ帰ってくるのかも機密事項なので教えてもらえないという、"遠距離恋愛の結構きついバージョン"ってやつをラブコメタッチで描いた表題作をはじめとする、自衛隊絡みの恋愛小説集です。自衛官だって恋もすれば悩みもする、遠距離恋愛に不安にもなる。そこを甘酸っぱく描いています。自衛隊は海自に限らずほかも出て来ますし、自衛隊ならではのエピソードも巧みに組み込まれていて楽しく気軽に読める短編集ですね。普通にお勧め出来ます。

さて。
実は私も昔、自衛官と付き合っていたことがあります。もう時効だし、いやそれ以上にかなり忘れかけている部分もあるんだけど、っていうくらいに相当な昔ですが。でも別に彼は船乗りでもなく、なんか大変な部署っていう訳でもなくて、土日祝日はいつも休みだし、盆暮れ正月にもそれぞれ1週間くらいずつかたまった休みがあって、普通の勤め人とほとんど同じでした。対して当時の私はと言うと…、病院勤めで、土曜は第一・第三のみが休み、日曜祝日でも日直として出勤する場合あり、お盆は休まず診療(夏期休暇は各自ずらして取る)、年末年始は大晦日と三箇日だけ休診(でも日直に当たってたら出勤)。そして遠距離でした。車で3~4時間程度の距離。
当直体制はまだ始まっていなかった頃だったのですが(当直してたらもっと酷かったんだろうな…)、「会いたい」と言われても「ごめん仕事」とか言うのはいつも私のほうだったなー…と、いうことを、この本を読んで思い出していました。そう、私も色々悪かったんだよな…というようなことを、しみじみと思ったりね。当時は私も仕事で伸び悩んでた感があり、いっぱいいっぱいで、そんな風に思える余裕はなかったので、今更ながらに、というかね。そうしてみると、航海中ろくな連絡もせず彼女を待たせていることに対して"クジラの彼"が感じている負い目のようなものも、多少わかるような気がしてくるのでした。待つ女のコ側のつらさだけじゃなくてね。

ところで、船乗りさんと言うと、漁師さんもそうですよね。うちの地元は漁師町で、沿岸漁業もさかんですが、遠洋漁業に出る船に乗り組んでいる人もいっぱいいます。小学校のときのクラスメートのお父さんもそうだった。で、あるときそのクラスメートのお父さんが亡くなったんです。船で遠くに行っている時に、急なご病気で、だったと思いますたしか。授業中に「○○君、すぐ家に帰りなさい」なんて連絡が入ると、クラス中が大騒ぎになってしまうもので、そのせいで憶えているのですが。
そのしばらく後に、校長先生との給食会がありました。全校の生徒が5~6人くらいずつ順番に校長室を訪ね、そこで一緒に給食を食べるってやつです。子供に延々くだらない話を喋ることが大好きな年寄りというものは本当にたちが悪いですね。私は例のお父さんが亡くなったばかりのクラスメートと同じ班分けになったのですが、校長先生がその席上で、「父親が不在の家庭では子供がしっかりと育たない」という主旨のことを喋り出し、小学生ながらに、それまずくね?的なことを思ったし大人不信にもなった出来事で記憶に残ってしまっています。言われたクラスメートがどんな様子だったかとかは実はよく憶えていないんですが。その子の事情もさることながら、遠洋漁業も地元の産業なんだって理解してないってことだから本当に酷い。

本書の最後に収録されているのが『ファイターパイロットの君』という短編です。飛ぶことに関してはすごくストイック、でも娘と旦那さんをとっても愛しているという可愛らしさをもつ女性パイロットが"君"にあたりますが、飛び続けることで家には不在がちになり、家庭をないがしろにしていると舅姑から思われていることが彼女にとって引け目となってしまっているというエピソードが盛り込まれています。
そこから脱線しますが、そういえばうちの両親も兄嫁のことをぐちぐち言うことがあるんですよね。いえ、兄嫁はそんながっつりお仕事されている訳ではありませんが、孫の世話に関して、押し付けられていると感じることが両親にはままあるようなのです。
ところが…、昨年の冬に、母が私に尋ねていわく「あんた、雪があるときってどうやって保育園に通ってたの?」。えーと…、甥っ子が通っている保育園は、私が通ったのと同じ保育園で、現在は母が車で甥っ子を送り迎えしています。または、天気が良ければ父が自転車で連れてくこともあるのかな。でも園児に徒歩では無理な距離。で、私の園児時代には、私の祖父が、自転車に乗せて送り迎えしてくれていましたが、祖父は車の免許は持っていなかったので、雨の日や冬場の雪道のとき、母の出勤後の我が家には手段がありませんでした。それで母の質問に繋がる訳です。で、どうしていたのかと言うと、向かいのうちにちょうど同い年の子がいたので、その子のお母さんに頼み込んで車に一緒に乗せて貰っていたんですよ。祖父がとても申し訳なさそうに頭を下げていた様子を私はじっと見ていました。それなのに母は、そのことをつゆッほども知らなかった訳なのですよ、30年後の今まで。あとで父に訊いたら、父も勿論、このことを知りませんでした。…がっかりした。私自身も物凄くがっかりしたのですが(両親の私への関心のなさからだと思って)、こうして自分たちがじーちゃんばーちゃんに私の面倒をさんざん見させておきながら、自分たちが孫を持つ立場になった時にあんなことを言うようになってしまうなんて、と、そういうことでも物凄くがっかりした。望んだらキリがないのに。そんなことも思い出したりしてしまいました。

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