『EXTRA HEAVY SYRUP』 1 小川 彌生(講談社コミックスキス)
コミック 講談社 発売:2004/02/13 410円

あ、これもうそんな前なんだ。

えっと、
「シュレディンガーの猫」についてご要望があったので(ない、ない!)ちょっと私なりに書いてみることにしました。と、いうか、ちょうど放射線の話題を書いたところだったので、なにげに放射線がらみのネタでもある「シュレディンガーの猫」につなげていこっかな、っていうのも考えていたんですよ。

哲学的なアプローチをするとなると…、すごくいろんな解釈の仕方があると思います。でも、もとはすごーく純然たる物理学上のパラドクスを示した例え話なのですよ。…ということが実は私も最近わかりました。

さて。このコミックスをなんで出したかっていうと、やっぱり「シュレディンガーの猫」が絡んでいるからです。表紙の女の子ふたりが、ちょっと変わった便利屋さんで、そのドタバタでスリリングな仕事振りをコメディタッチで描いている漫画、だと思います。
…いま、もっかい読んでから書こうと思って探したんだけど、見つからないんですよねー。どこに仕舞い込んだかなあ。古本屋には回してないと思うんだけど…。
でね、この主人公たちがある女の子と知り合うんですが、その子の彼氏が失踪中なんですよ。で、その彼氏はある企業で量子コンピューターの開発だったっけ、なんかそういうのに関わってるの。女の子が、失踪前の彼と交わした会話を思い出して語るシーンがあります。彼と1日まったく連絡が取れなかった日の翌日に「昨日なにしてたの?」と尋ねると、「何してたと思う?」と彼氏。「え?え~っと、1日中篭って仕事?」「ほかには?」「仕事が嫌になって1日中パチンコしてたとか」「その両方だよ」って言ったかどうだったかは忘れたんですけど(おい)、とにかく、「君と会っていない時にはいろんな僕がいて、君に会うときにシュッとひとつになるんだ」的なことを言ってたと思います。これも一種の「シュレディンガーの猫」で、彼女と会っていない時の彼が箱の中に入れられた猫で、彼女と会っている時の彼が箱を開けたときの猫。
…、余計わかりにくくなっちゃったような気がする。(えー!)

私もちょっと前までは、「箱の中に毒と一緒に猫を入れて蓋をする。蓋を開けてみるまで、猫が毒を食べたか食べないかわからないから、蓋を閉じたままの状態のときの箱の中の猫は生きているとも死んでいるとも言える」、という話だと思っていたのですが、その後調べてみたら、箱の中に猫と一緒に入れられたのは、ただの毒ではなかったのですよね。放射性物質のラジウムと、放射線検出器と連動した青酸ガス発生器、それと一緒に猫を入れる、という話だったのですよ。

さてここで、アニメ版聖闘士星矢における、キグナス氷河の師匠・クリスタル聖闘士の言葉を思い出して欲しい。(知るか!という声が聞こえてきそうだぜ…)。えっとね、冷気を操ることで技につなげていく聖闘士さんたちなんですけど、その原理っぽいことを説明してくれるシーンがあるんですよ。「氷河よ、物質はすべて原子でできている」「原子?」「そうだ、原子は常に動いていて熱を生み出している」だから、物質を凍らせるにはその原子の動きを止めればいいっていう理屈で、「氷河よ、小宇宙(コスモ)で原子の動きを止めるのだ!」「原子を、とめる?」っていうようなシーンでね、うろ覚えですけど、多分こんな感じなの。
ちなみに、電子レンジはだいたいこの逆の原理なんだよ。ある周波数の電磁波をびびびって水分子に当てると、分子が振動して熱が発生してあったかくなんの。

で、この原子のイラストとかって思い出せる?高校の化学でだいたいやるじゃん?太陽系のイラストに似てて、太陽が原子核、周りの惑星が電子っていうあんな感じの。その太陽にあたる原子核の中には、陽子と中性子が詰まっています。そいつらが何個詰まっているかでなんていう原子になるか決まる。陽子が1個だけで中性子がゼロだと水素、陽子2個と中性子2個だとヘリウム、って感じにね。この陽子はプラスの電荷を帯びている…つまり磁石のプラスと一緒ね。だから陽子が2個いたら、磁石のプラス同士を近づけたときと一緒で反発しあうはずなんですけど、ヘリウムみたいな小さい原子のときは引力みたいなのが働いて原子核の中に引き止められている訳。これが今度、ラジウムみたいなでっかい原子になると陽子や中性子が何十個も入っている訳だけども、そいつらが原子核の中のどの辺の場所にいるかっていうのがはっきりしてなくって(不確定性原理)、場合によっては陽子が固まって存在することもありうる。そうなるとプラス同士の反発しあう力が、引き止める力を上回ってしまうこともあり、結果、陽子(と中性子)が原子核からぼかぁ~んと飛び出していってしまう。これが放射線。(の一種)。(この原子核から飛び出していく陽子2個と中性子2個のかたまりがアルファ線)。

いま話している「陽子」っていうのは勿論「ようし」のことなんだけど、こんなに繰り返して使っていると、なんだか「ようこ」ちゃんていう女の子みたいな気もしてきちゃう…。ようこは反発して家を飛び出した、みたいな。…。
…さて、この原子核の中での陽子や中性子はいつも同じ位置にはいなくって、あっちに行ったりこっちに行ったりしている(と想像される)訳だけど、量子力学の世界では、そういういろんな状態が重なり合った状態で存在しうると解釈されます。…なんで重なり合ってるの?っていうところが、ホント言うと私もよくわからないんですよねー…。か、重なり?"重なる"ってどういうことなの?…と思いつつもとりあえず進んでみます。で、この重なりあった状態っていうのは観測する事で、いずれかの状態に収縮すると考える、んだそうです。それが、上に出したコミック『EXTRA HEAVY SYRUP』で言うところの、「君と会うときシュッとひとつになる」なんだと思います。

ちょっと強引だけど、そういうつながりで行くと、原子核の中での陽子と中性子の位置は、そこに留まっていられる配置のときと、放射線となって飛び出してってしまうような配置のときとが、重なり合った状態で存在している、ということになります。ってことは、猫と一緒に箱に入れたラジウムが、放射線を出していない状態と出している状態とが重なり合って存在しており、検出器がそれを感知して青酸ガスが発生しているときとしていないときも重なり合ってるってことになり、最終的に猫も生きている状態と死んでいる状態が重なり合っている、という結論が導き出されてしまうことになる。――っていうのが、シュレディンガー先生が唱えた思考実験なのです。たぶんね。私の解釈では。

実際問題、猫は死んでるか生きてるかどっちかでしかなく、箱を開けてみるたびに死んでいる状態と生きている状態がランダムに観測されたりなんてしません。じゃあ、原子レベルでの陽子や中性子の状態についての定義が間違っているのか?というとそうではない。こっちのほうは説明が難しいんですけど、いろんな実験やら観測やらでやっぱりミクロレベルでは、そういう粒子の状態が重なり合ってると考えるしかない、みたいになってたと思います。たぶん。

っつー訳で、実際ありえない、おかしい結論が導き出されてしまう例え話のひとつとしての「シュレディンガーの猫」が、これです。また、それによって、量子力学の不思議さ、奇妙さを逆に示してくれるお話なんじゃないかなって、思います。

とはいえ、この猫が一体どういう状態になっているのか…、ホントのところ、生きてんの?死んでんの?という疑問には多くの人が惹きつけられているように思います。ここから先は、ホントにもう、量子力学の世界を離れて、色んな解釈の仕方があって、結局のところ答えはない…のかも知れません。

コメント

奈央
2009年2月1日3:54

なるほど…!
いままでで一番理解に近付いた気がします(曖昧だけど今のわたしの限界かも…)
昔読んだ京極堂の蘊蓄の刷り込みが強い上に、理数系のことは鶴亀算までしか覚えてないから、なにを読んでもハテナだったんですよー。

「観測者の主観が入っちゃいけない」「猫は1/2死んでる」と、繋がらないけど、こう解釈してました(京極が)(いえわたしの限界値が)
陽子とかと一緒に考えられたのははじめてで、視界が広がったように思います。
そしてそもそもの実験の根本?もわかったし。
ありがとうございましたー。
またこういうの読みたいです!

りょう
2009年2月1日10:03

おお! そういう意味だったんですか!
何がパラドクスなのか、ようやく分かった気がします。
ふつう実験の説明を読めば、途中の化学式やメカニズムが分からなくても、実験の目的ぐらいは理解できるものなのに、この実験は目的すらよく分かりませんでした…。
何のための実験なのか分かって、すっきりしました~。

> いろんな実験やら観測やらでやっぱりミクロレベルでは、そういう粒子の状態が重なり合ってると考えるしかない

私はここが分かってませんでしたよ、先生!(笑)
1、青酸ガスは発生する可能性もありうる
2、ゆえに猫は生きている可能性も死んでいる可能性もある
1が「可能性の有無」の話だと思っていたので、1が不確定なら、2も確定しないのは当たり前なんじゃ???
…という風に、かなり初期の段階で理解につまづいてしまっていました。
「重なり合った状態」っていう特殊?な言葉の意味が、やっと分かった気がします。

分かりやすかったです~。ご教授ありがとうございました♪

”D”
2009年2月1日19:16

♪ペ~ガサスファンタジ~ そうさ夢だけは~ 誰も奪えない心の翼だ・か・ら~(笑)、なんつって、シュレディンガーの猫もペガサスファンタジーなのかも知れませんね(え?そう?)。

やっぱり「重なり合ってる」っていうところが一番わかりにくいポイントなんじゃないかなって思うんですが、それもこのお話の始点である陽子のレベルまで行けばちょっとはわかったかも、と思えた自分の経験をもとに書いてみました。

楽しんで読んでいただけたようで良かったです!コメントありがとうございました!