『はつ恋』榎田尤利  (ビーボーイノベルズ)
単行本 リブレ出版 発売:2009/10 893円

今日はエダさんの『はつ恋』の話を。

いいタイミングだし、ちょうど休みだし、福山『はつ恋』を聞きながら読みました。

ま、同じなのはタイトルだけですけどね…と最初は思ってましたが、読み進むうち、ポイントポイントで、「あ、ここのフレーズはここの時点での久我山にちょうピッタリ!」て思うところがあって、凄く良かったです。

そしてまた、エダさんの、…なんて言うんだろ、読者を共感させる力の凄さ、みたいなものかな、それに感動した。もう、降参です、脱帽。通常は読み手側の感覚というか、相性みたいなもので左右される部分もあると思うんですけど、エダさんのはそれを超えてて、筆力で読み手の共感を導いている気がします。
そういえば『犬ほど素敵な商売はない』でもそれに凄く驚いたものでした。だって、タイトルとあらすじと表紙イラストでドン引きしてたのに、読んだらあなた…、「犬になりたい」という気持ちが理解できてしまったんですよ?それはそんなにおかしいことじゃないと思えたんです。『夏の夜の夢』の「私はあなたの飼い犬になりたいの!」はさすがに理解できないままですが。
本作でも、そういう実力が遺憾なく発揮されていて、17歳になってしまった31歳、31歳…でも17歳、…っていう、そういうのが凄く良くわかって、どうしようもないくらい切なくなったし、泣いちゃったし。丁度よく曲も盛り上がったりしててさー。相乗効果だったなー。「♪永遠のはつ恋と呼ばせて / せめてはつ恋と呼ばせて」のところとかさ。途中でホントにこれがピッタリなとこあったんだもん。

 
以下、 ネタバレ

 
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あと福山『はつ恋』に「誕生日に君がくれた手紙」って出てくるんですけど、エダ『はつ恋』にも「誕生日おめでとう」と書かれた残暑見舞い葉書が出て来るじゃないですか、うわー、微妙に合ってる!つってけっこう喜んじゃいました。実際これ、偶然でしょう?

それにこの葉書のシーン、めちゃくちゃイイところなんだよねー。残暑見舞いだと思ってぱっとめくったら「誕生日おめでとう」って書いてある。そりゃ胸を衝かれるでしょうよ!

これで一人称に「私」を持ってくるところがうまいなーと思います。31歳と17歳のギャップが強く意識されて、肉体は17歳に戻っていても中身は"私"31歳、ということが良くわかる。しかしそういった確乎たる大人であったとしても、胸をかきむしられるような思いを抱くのだ…、いや、17歳の肉体に引き摺られているせいかもしれないが、実際をそれを感じているのは31歳の"私"だ…、という風に読み取れたんですよね。あくまで31歳と17歳は同化しない。これは31歳に戻った時に、あの気持ちは17歳の時のものだった、とならないためにも割と大切なところなのでは。もしこれが「俺」だったら、ちょっと曖昧になってしまっていたかも知れないな、などと私は思いましたが。

現在30代くらいの読者が、14~15年前を懐かしむような読み方もあると思うけど、ひょっとしたらエダさんは、もっと若い読者にもこれを読んで欲しいんじゃないだろうか?なんてふと思った。

感受性が豊かな年頃で、自分が傷付くことには酷く敏感だが、意外に他者の痛みに対して鈍感な…、…もしそんな人がいたら、気付いて欲しい…、とか。
いえいえ、そう思っているのは私ですかね。

DVや共依存なんていうネタも織り込んでくるあたりが…、いや、そういう言葉だけじゃなくてね、いままでDVがなぜ起こるのかわからなかった人もこれを読んだらわかるでしょうという書き方がさすがエダさんていう気がしました。(ただしDVを受け入れてしまう側のほうだけね。ふるってしまう側については描写不足な気がします。)(いえ、別にそれが必要な話ではないので、いいのですが)


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それにしても、ほんと、恋のせつなさがリアルに胸に響いてくるいい作品でした。
特殊な設定が充分に生かされていたし、また、その設定だからこそ生まれる感情もあり、その感情の向かう先があって、それがさらに恋愛感情につながっていって、最後は「(相手が)生きててよかった」なんだもんね。

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最後に、蛇足ながら、勝手に個人的に曽根先生にも一曲プレゼントしたい。
それはイエモンの『甘い経験』ていう曲。後日談的な『はつ恋のゆくえ』のラブシーンを読んでいるとき「こんなセックスを待っていた」ていう『甘い経験』のワンフレーズが急に浮かんだので。
すいません、ラストちょっと品がなくて。

コメント

りょう
2010年1月11日17:57

おお、今度はエダさんの『はつ恋』ですね!(笑)
ほんと『犬ほど~』の設定で無理なく感情移入させてくれるエダさんの筆力には脱帽ものでしたが、この作品の年齢の書き分けもお見事ですよね。
若い読者に向けてのメッセージ性も、言われてみればあるのかもしれませんね。なるほど~という感じです。31歳の主人公の視点のせいか、お説教くささを感じないところもよかったです。

”D”
2010年1月11日19:16

はい、今度はエダさんのです!(笑)
いいタイミングだから、波に乗ろうと思って。

> この作品の年齢の書き分けもお見事ですよね。
本当にそう思います。31歳だけでもだめで、17歳だけでもだめで、その両方をごっちゃにしてはだめで、でもちょっとは混ざり合う部分があって、っていう、そのバランスがちゃんと取れていないとキレイに決まらないお話だと思います。
まさに見事としか言いようがありませんです。

> 若い読者に向けてのメッセージ性
ちょっとだけ、アンジェラ・アキの『手紙』も思い出したりしていたんですよね。「この手紙読んでいるあなたはどこで何をしているのだろう」「15のあなたに伝えたいことがあるのです」と、15歳視点での大人の自分に向かって語りかけるフレーズと、大人視点で15歳の自分に語りかけるフレーズとがきれいに折り重なってるんですよね。この歌だって若い子達に凄く響いた、と思うし、同じようにお説教くさくない、というか。17歳なり15歳なりの視点にちゃんと降りてきている感じがあるから、なんかそんな風に感じたのでした。